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高額療養費制度改定とピンクリボン運動

高額療養費制度改定とピンクリボン活動

高額療養費制度の自己負担額引き上げについて、多くの患者団体、医療関係者、地方議会、国会議員などから強い反対の声が上がっています。政府はいったん「今年8月の引き上げ実施」を決めましたが、与党内でも見直しを求める声が広がったことから「今秋の引き上げ見送り」が発表されました。今後、公的保険制度の維持と保険料の負担軽減の観点から、高額療養費の問題のみならず医療費・制度全体についての議論が必要になっています。

 

この動きを受け、乳房健康研究会として重要だと考える点が2つあります。

  1. 患者の声が国を動かしたこと
  2. 乳がんの早期発見の重要性が増し、ピンクリボンアドバイザーの役割がより大きくなること

患者団体の活動

今回の高額療養費制度改定の動きにおいて、患者団体が果たした役割は非常に大きいものです。

  • 12月に高額療養費引き上げに関する要望書を提出(参考
  • 3,000名を超える患者の声を集め(参考)、13万人以上の署名を提出
  • メディアの注目を集め、国会議員への説明を連日実施

その結果、「今回の引き上げは不十分な議論のまま決定された」という反省の声が上がり、「高額療養費制度と社会保障を考える超党派議員連盟」が設立されました。

医学界からもこの問題に関する声明が発表されています。詳細は各学会のHPをご参照ください。

ますます重要になるピンクリボン活動

今回の高額療養費制度の問題は、「経済毒性」という観点からも早期発見と早期治療の重要性を再認識させるものとなりました。

近年、がんの遺伝子や生物学的特性に応じた新薬が次々に開発され、乳がん治療の成績は向上しています。2020年以降に保険承認された乳がん治療薬には、以下のようなものがあります。

  • エンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)
  • キートルーダ(ペンブロリズマブ)
  • トルカプ(カピバセルチブ)
  • トロデルビ(サシツズマブ ゴビテカン)
  • ターゼナ(タラゾパリブトシル酸塩)
  • ダトロウェイ(ダトポタマブ デルクステカン)

これらの新薬は、術後再発リスクを減らし、再発後の生存期間を延長させる効果が期待されています。しかし、高額な開発費がかかるため薬剤費は高くなり、治療費が1ヶ月100万円を超えるケースもあり、高額療養費制度の適用が不可欠です。その上限額が引き上げられると、がん患者さんやその家族の経済的負担がこれまで以上に増大し、患者さんの療養生活や社会生活の質に多大な影響をもたらすことが懸念されます

しかし、乳がん検診を継続し、ステージ0やステージIの段階で発見できれば、高額な新薬を使用する必要がなくなります。実際に上記の新薬は、再発リスクの低い早期乳がんには適応されていません。

従来は、「乳がんは早期発見・早期治療によって治る病気であり、早期発見しないと再発率が高く、再発したら治らない」と乳がん検診を推奨していました。しかし、これからは、「早期発見しないと、効果は高いが治療費も高額な治療を受けることになる」という視点も加わります。早期発見は、体の負担を減らすだけでなく、精神的な負担の軽減にもつながり、そして患者さんの家計を守るためにも重要です。

また、現在も多くの乳がん患者さんが高額な治療を含めてさまざま医療を受けられておられます。職場や地域など社会や環境が患者さんに優しいものとなるためには、私たちひとりひとりの意識とサポート、活動が重要となっています。ピンクリボン活動は、今の患者さんと明日の患者さんのための活動です。

 

ピンクリボンアドバイザーへの期待

乳房健康研究会のピンクリボンアドバイザーには、医療従事者(医療専門職と事務職をふくめた医療医療に関わるさまざまな人材)、患者さんとご家族、市民、ご寄付をいただくなど乳がんやピンクリボン運動に関わる企業のスタッフ、行政関係者、政治家、メディア、そして未来を担う中高生(ジュニアピンクアドバイザー:ピンクリボンアドバイザーによるがん教育の授業を受けた学生の皆様)など様々な方がおられます。それぞれのアドバイザーが使命感を抱かれて、さまざまな領域で活動されています。ピンクリボンアドバイザーは、乳がんにやさしい社会をめざす新しい形のボランティアです。乳がんから自分を守る、家族や友人に働きかける、社会を変えていく……これまで20年以上にわたってそのような活動をすすめています。乳房健康研究会は設立以来25周年を迎えていますが、上述したような状況において、ピンクリボンアドバイザーの役割がますます重要になってきています。

  • 「乳がん検診の重要性」を社会に伝える
  • 早期発見による「治療負担の軽減」について啓発する
  • 乳がんに対する意識を高め、行動に踏み出す手助けをする
  • がん教育による国民のヘルスリテラシーの向上により医療費削減を目指す
  • 高額療養費制度の課題について、患者や関係者へ情報を届ける

皆様の活動が、多くの方々の健康を守ることにつながります。ぜひ、積極的に啓発活動を行っていただければと思います。

 

オンラインセミナーのご案内

 これからの活動のためには、「知る」ことが大切です。そこで乳房健康研究会では、高額療養費制度や最新の乳がん医療についてのセミナーを実施いたします。日時など詳細は後日乳房健康研究会のホームページでお知らせいたします。ぜひご参加いただき、これからの活動に活用していただければと思います。